本棚が埋まる喜びは僕にもあった

沼田まほかる 「九月が永遠に続けば」

九月が永遠に続けば (新潮文庫)

九月が永遠に続けば (新潮文庫)

 

 本文のあとに簡潔でよい解説があるので(しかもそれを読んでしまったので)、ここでエラソーなこと言えないっす。

 わっしはコレ好きなジャンルだす。あっちいったりこっちいったりな展開が特にね。三者三様にアヤシイ。ただ、越智先生を怪しげな人物に書く必要はなかったのではねーかな。

 解説にもあったけど、服部サンの一本調子な明るさね。一人にして欲しいときにはとことんうっとうしいけど、気を紛らわせたいときには助かるっていうね。

 種明かしというか謎明かしが物足りないような気もするけど、そこらへんがやっぱりよいバランスで書かれているんだな。

 

 「父は娘の最初の恋人。息子は母の最後の恋人」なーんていいますけどね。お母さん、アンタ、落ち着きなはれや。なんぼ息子がかわいいゆうたかて、人様の娘に対して言うてええことと悪いことありますわ。先生も先生ですわ。たしかにこの子はえらいことしでかしよりましたわ。せやけどまだ高校生でっせ。そらわしも、キビしーく言わなあかんとは思いますけど、言い方ゆうもんがありまっしゃろ。  (インチキ)

 

 高野和明の「13階段」とちょっと似た感じの胸糞悪さはあるけど、いわゆるリーダビリティは高いと思う。ただ、ずっと記憶に残る本かといえば、・・・

 

 それとわっしは、(みんなそうだと思うけど、)登場人物のうちにひとりでも美人がいなかったら、読む気をなくすのだ。ただ、その美人の描写が「由美はすれ違った誰もが振り返るほどの美人で今まで何人の男に付きまとわれたか知れない」(わっし創作)なーんて月並みで陳腐なモンだったら、もはや何も言ってないのと一緒だよ。結婚式のスピーチで「新婦は才色兼備で気立ては優しく・・・」なーんて言っても誰の心にも記憶にも残らないのと一緒だね。

 そこで、作家さんたちの腕の見せ所ってわけ。だいたいどっかに重点を置いてその美しさを描写すると思うんです。目とか口元とか、粋なのは顎とかw。しかも「形の整った」とか言ってもぜんぜんダメ。どうゆうふうに整ってるのかを具体的に描いてくれないと。

 そこで本作に戻ると、冬子とその母は、肌の白さ、美しさに重点を置いて書かれています。えらい古めかしい(奥ゆかしい?)たとえを用いて。うーん、どうなんだろうね。肌がとてつもなく綺麗だと。それがはたして男を惑わすかというと・・・?多少はそうなるだろうケド。常軌を逸するほどではないんじゃないでしょうかね。ま、「おめぇはまだまだ女をしらねぇんだ!」とか言われたら「ぐぬぬ・・・」としか言えませんけど。

 ってわけで、冬子と母の魅力の描写がいまひとつガツンとこなかった点が、印象が薄い原因の一つではないだろうか(誰に言ってるんだ)。

 もっとも、この点で成功している作品なんか本の一握りっぺだから、そんなに取り立てて言うほどのモンダイではないのかもね。